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欠けた月

野いちごがゆれた

踏切をこえたら、左に曲がって30mくらい。
その子の住むマンションは、そこにあった。

 

 

僕の住むマンションからは、歩いて9分半。
踏切に引っかかると、もう少しかかる。

だけど、僕がその踏切をこえる時間は、引っかかることは殆どなかった。

 

 

その子は一つ年下で、名前もあまり知らない町から、この町へ一人で引越してきた。

「地元が嫌で、別の町で一人暮らしをしたい」という、なんともありふれた理由。

そして、僕の前に現れた。

当時の僕は、サークルとも呼べないような少人数のグループに所属していた。
活動といっても、みんなでちょっと出かけたり、そして飲むだけ。

その子がそのグループを選んだ理由を、飲み会で聞いた気もするけど、当時も、そして今も覚えていない。

 

 

グループ内で、その子が最初に仲良くなったのは、僕だった。
きっと、気弱だった僕が話しやすかったのだろう。
僕も初めての後輩だから、話しやすかったことを覚えている。
そして、いつしか二人で会うようになった。
でも、付き合うとかじゃなくて、なんとなくだった。

 

 

深夜までのアルバイトが終わったら、時々その子の家へ行った。
いつもの踏切をこえる途中で、横を見るのが大好きだった。

そこには、まっすぐ伸びる線路の上に、いつも綺麗な月があった。

まるで映画のワンシーンのような、そんな景色が好きだった。

 

 

その子には、生理がこなかった。
妊娠したとか、まだ始まってないとかじゃなくて、「こない」ということだった。
つまり、子供の産めない体なのだ。

 

 

自分の身体の事を知ったのは、高校に入ってからだという。
検査に行って、「こない」ことを知ったらしい。
その話を聞いた時、僕はどう言えば良いか解らなかった。

とりあえず、「そうなんだ。」とつぶやいた。

若かった。

でもきっと、今の僕も同じ返事をするだろう。

若かったとは、都合のいい言葉だ。

 

 

やがて、僕は就職した。
そしてすぐ、転勤で少し遠くの町へ行く事になった。
その子に転勤を伝えたら、その子は「そうなんだ」って答えた。

 

 

どこの誰だかが、青春は無責任と言った。
それは、人が人にとかではなく、青春そのものが無責任なんだろう。
その子と話した言葉や、その子の仕草より、あの頃の月ばっかり覚えている。

 

 

かつて線路のあった場所をこえ、左を少し覗いてみた。
あの子がいたマンションの上に、欠けた月が浮かんでた。

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